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本音は脳に聞く時代、ニューロマーケティングでビジネスは進化する

ニューロマーケティングでビジネスは進化するマーケティング
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応用脳科学から生まれたニューロマーケティング(neuromarketing)は脳の反応を直接分析することで、インタビュー、アンケートといった従来のマーケティング方法では得られない「無意識のデータ」を抽出することができます。その無意識のデータこそ、バイアスのかかっていない良質なデータであり、人間の本音を把握することのできる手段です。

現在欧米では1000億円規模のマーケットになりつつあり、GoogleやAmazonもニューロマーケティング部門を作るほど、積極的な投資が始まっています。これまでのマーケティング手法を覆し、ゲームチェンジャーになる可能性も秘めているニューロマーケティングの今と未来を探っていきましょう。

社会を変える応用脳科学

近年、脳科学は医療だけではなくビジネスにおいても非常に注目されている分野です。なぜなら脳の計測技術の進歩によって簡易的に脳のデータを得ることが可能になり、さらに情報技術の進歩したことで脳の可視化とデータ分析が企業においても可能になりつつあるからです。

その先端テクノロジーとニューロサイエンス(基礎神経科学)を基盤として可視化したデータをもとに、様々な分野で活かすための研究が応用脳科学です。

応用脳科学は人間の思考・記憶・感情・認知といったこれまで捉えづらかった領域を可視化することで人間の心を解き明かし、その情報を経済学や社会学といったこれまで接点がなかった研究領域と融合させることで、人間の本質的な部分を理解できると期待されています。

既に経済学、社会学、医学といった学術的に分野、そしてロボット開発・ヘルスケア・マーケティングといったあらゆる分野で研究が盛んに進められています。

応用脳科学の全体像

 

21世紀は「脳の世紀」、世界でも広がる脳科学研究

20世紀後半は軍事目的で研究されていた脳科学研究ですが、いまや世界各国が国策としてプロジェクトを立ち上げるなど大きな資金が投入されています。

アメリカはNIH(アメリカ国立衛生研究所)やNASAなどが協力して行ったHuman Brain project」に10年間で数十億ドルを投資するとを発表し、2007年のNIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究費として48億1000万ドル(当時約5700億円)投じています。またEU(欧州連合)においても1998年からNeuro-IT(ニューロインフォマティックスと人工知能の融合領域)という脳科学とITの研究を促進するプロジェクトを立ち上げ、2012年にはEUの「Human Brain Project」に10年間で約12億ユーロ(約1400億)の資金を投入することが決定しています。

日本でも脳機能の理解と医療・福祉・教育などへの応用、そしてBMI技術(ブレイン・マシン・インターフェース)の開発を目的として2008年に脳科学研究戦略推進プログラムがスタート。このプロジェクトは脳科学支援施策としてはもっとも最大規模であり、2007年~2015年までにおよそ260億円もの投資を行っています。

21世紀は「脳の世紀」といわれるように、世界中が脳科学研究へ大きな期待を寄せているのです。

脳科学のマーケティングへの応用

世界的に研究が進んでいる応用脳科学は様々分野に広がり、いよいよビジネス領域でも実用化段階となってきています。特にマーケティング分野では、積極的に活用が進められており、日本でも次々とベンチャー企業が立ち上がっています。というのも人間は95%が無意識の行動と言われており、これまでの行動経済学をもとにした予測やデータから推測する仮説だけでは限界がありました。しかし脳科学によって客観的かつ科学的に分析できるようになったことで、より正確なマーケティングが可能になったのです。科学的な視点でマーケティングが可能になるということは、今後のビジネスにおいて大きなインパクトを与えることは間違いありません。

その大きな潮流のひとつであるのがニューロマーケティング』です。

人間はいかに無意識で判断しているか

さてここから本題に入りましょう。

私たち人間は自らの判断で物事を決断していると考えているでしょう。しかしそれは事実ではありません。実際に私たちはかなり多くのことを曖昧に判断しています。

例えば認知バイアスで有名な「アンカリング効果」。

これは最初にみた価格を無意識に適正価格と思ってしまうという現象です。本当の適正価格は調べてみれば分かりますが、最初の情報がアンカーとなり、それを基準にものごとを判断してしまうのです。テレビ通販などはこの人間の認知バイアスを上手く取り入れています。

アンカリング効果_ニューロマーケティング

その他にも、みんなが良い!と言っているものを無意識に自分も良い!と判断してしまうバンドワゴン効果。例えば通販サイトのレビューをみて良い商品!と思ったり、行列ができているお店をみるとついつい入ってしまったり、近年では著名な有名人やYoutuberなどがインフルエンサーとして発信している情報などでも、バンドワゴン効果がみられます。

バンドワゴン効果_ニューロマーケティング

このように人間は外部要因にとても影響されやすく、無意識に物事を判断している、もしくは判断させられていると言えるのです。

 

従来のマーケティング手法の欠点

上記でも説明したように、人間の判断というのは記憶・感情・周囲の反応などに影響を受けやすく非常に曖昧です。ということは従来のマーケティング手法であるアンケートやインタビューといった手法は、その日の感情や前日に起こった出来事などに影響を受けた「信頼度の低いデータ」が多く含まれている可能性があります。

また人間は最初に脳が反応した答えではなく、その反応に対してこれまでの経験や周囲の情報を組み合わせて言葉や文字でアウトプットするため、いわゆる「本音」ではなく「たてまえ」の回答をしてしまうこともあります。

そう、私たちの口から出てきたデータは真実であるとは言えないのです。

本音とたてまえ

そういった曖昧な情報をもとにしたマーケティング戦略は、顧客のニーズを正確につかむことが難しい=何度も施策を実施する必要があり、マーケティングコストも高くなる傾向にあります。

 

客観的に真実を見抜く「ニューロマーケティング」

そこで注目されているのが脳科学とマーケティングを融合した「ニューロマーケティング」です。ニューロマーケティング(またはニューロリサーチ)とは、神経科学技術の商業的応用とビジネスをさらに推進する目的として、脳の情報を活用したマーケティングです。

ニューロマーケティングではfMRI(機能的核磁気共鳴画像方法)とEEG(脳波測定)といった様々なセンシングデバイスを使って、脳や体から人間の生理学的信号と神経信号の測定を行い、その反応データをコンシューマーニューロサイエンス(消費者神経科学)の知見を用いて、顧客の購買動機や好み、意思決定のプロセスなどを分析する次世代のマーケティングです。

脳の反応を分析することで、人間の無意識の情報を測定することができ、自分自身も自覚していない潜在意識下にある「本音」のデータとして得ることができます。このバイアスのない客観的な事実を得ることができるのがニューロマーケティングの強みです。

またニューロマーケティングは、体験している最中の反応を数値化できることも大きな特徴です。アンケートのように体験後の感想を得るのではなく、体験している最中のデータを分析することで、バイアスの少ない良質なデータが抽出でき、より使いやすい商品設計を考えることができます。

コンシューマプロダクト(消費財)の95%が失敗に終ると言われている中、ターゲットが本当に求めているものを事前に把握できるようになれば、企業にとって大きなビジネスチャンスになるでしょう。ちなみにGoogle、Amzon、Disneyといった巨大企業では、専門部署を設けて研究が進められています。

多数から少数の分析へ、そしてコスト削減も可能に

従来のマーケティングは多人数から得た大量データを分析することで商品設計やサービスの改善に役立ててきましたが、ニューロマーケティングは少人数のデータで信頼性の高いデータを得ることができます。これにより、マーケティング予算を削減できる可能性もあります。

ニューロマーケティングの調査には様々な機器や専門家が必要になるため、現時点ではコストが高くなりがちですが、少人数で信頼性の高い情報を得ることができれば、コストパフォーマンスがよく効果的な施策になるといえるでしょう。

最近の多くの研究では、比較的少数のグループから記録された神経データは、市場レベルの行動を予測できるだけでなく、従来のマーケティングツールよりも予測しやすいことが示唆されています。fMRIスキャンからのデータは、市場レベルの音楽販売、慈善寄付、さらには禁煙広告キャンペーンの相対的な説得力の予測において、行動データを上回ることが示されています。

引用:Harvard Business Review|Market

コカ・コーラとペプシの事例

ここでひとつニューロマーケティングに関する事例を紹介します。

ニューロマーケティングの事例としてよく使われるのがコカ・コーラとペプシを用いた飲料水の意思決定の実験です。

この実験では、まずブランド名を伏せた状態で試飲してもらい、味の好みのみで好き嫌いを判断してもらいます。この時点での割合はほぼ同じ。次にブランド名を見せた状態で試飲してもらいます。すると多くの人がコカ・コーラの方を選択し、さらに味のみの場合とは違い記憶を司る海馬の反応が活発になることが発見されました。

コーラの事例_ニューロマーケティング

これはブランドのイメージが味にも影響を与えることを示唆しています。この実験によってブランドイメージの重要性が再確認されると同時に、ニューロマーケティングが改めて評価されることになりました。

 

テクノロジー×ニューロマーケティングでマルチモーダル化へ

世界的な潮流でもある第4次産業革命により、脳の分野でも新しいテクノロジーが進化しています。それが「ブレインテック」です。ブレインテックはテクノロジーを用いて脳の分析や脳に対してアプローチを行うことで、病気の改善や技術向上、ビジネスにも応用することを目指す分野です。ニューロマーケティングもブレインテックを応用したマーケティングといえます。

ニューロマーケティングは2000年代からあった考え方ですが、MRIなど高価な設備が必要だったため、一般的に普及することがありませんでした。しかしデバイスの小型化やアプリ連携といったテクノロジーが進化したことにより、一般企業でも活用できるようになりました。そして目の動きから情報を得る「アイトラッキング」、顔の表情から感情を判断する「顔認識(表情認識)」、皮膚反応をもとに分析する「ガルバニック皮膚反応」といった複数の生体ツールを組み合わせたマルチモーダル化(複数の情報を連携)が可能になったことで、より精度の高い分析ができるようになってきています。

 

日本のニューロマーケティング最前線

欧米を中心に普及が進んでいるニューロマーケティングですが、日本でもに商品開発、クリエイティブ広告、動画作成、サイト改善、環境整備など様々なところで活用されています。

ブレインテック カオスマップ

参照:メディアシーク「ブレインテック カオスマップ2020」

大学×ハイテク企業から生まれた会社「株式会社NeU (ニュー)」

株式会社NeUは東北大学の認知脳科学知見と日立ハイテクの携帯型脳計測技術を融合して誕生した企業です。株式会社NeUではニューロマーケティングや感性評価、VR空間でのアイトラッキング計測、ストレスマネジメントといった企業向けのサービス、研究者向けの小型のNIRSデバイスを開発・提供、そして個人向けの脳トレサービス「Active Brain CLUB」など、脳科学の知見に基づいた様々なサービスを提供しています。

既に商品開発・ブランディング・クリエーティブの改善といった幅広い領域で、ニューロマーケティングを活用した実績をあげており、2019年にはLINEと提携し、LINEリサーチの新サービスとしてニューロリサーチの提供を開始しています。

生体反応から真実を導き出し課題を解決する「SOOTH株式会社」

大手TVCMなども手がけるアジア大手の映像制作会社から生まれたソリューションカンパニー「SOOTH株式会社」。脳波、アイトラッキング、心電ログなど様々な生体反応をマルチモーダル化して独自のアルゴリズムとAIを活用した分析、そして課題に合わせた企画提案まで独自の強みを活かしたクリエイティビティなサービスを提供しています。

特にVR技術を活用した調査を多く手がけており、大手製薬会社の消臭芳香剤の製品開発やIoTに関する生活調査、動画視聴時の視線をスコア化・分析できる「視線カウンター」の開発などに取り組んでいます。

感性アナライザで新しいビジネスチャンスを発見する「株式会社電通サイエンスジャム」

サイエンス×ビジネス×アイデアで新しいビジネスを創出している株式会社電通サイエンスジャムでは、人間の感情データをヘッドギアとipadだけで解析・分析できる「感性アナライザ」を開発し、商品開発・プロモーション・施策改善など企業の課題に合わせて活用できるサービスを提供しています。

2020年6月には自宅にいながらリアルな環境で調査ができるフルリモートニューロリサーチというサービスの提供が始まっています。

 

個人でもできる!自宅で手軽に脳波測定

近年、健康管理やダイエットといった血圧や体脂肪を測るヘルスケア用デバイスが数多く発売されていますが、脳波測定の分野でも個人向けの様々な商品が開発されています。

そのひとつがNeuroSky社から発売されている「MindWave Mobile 2」です。MindWave Mobile 2はセンサー付きのヘッドセットを装着し、α波やβ波などの測定から、アプリケーションを使った瞑想トレーニング、そして研究開発用としても利用することも可能な多機能デバイスです。

MindWave Mobile 2_ニューロマーケティング

MindWave Mobile 2画面

参照:NeuroSky

自分の脳波を色々なシチュエーションで実験してみたい、脳波データを使ってアプリケーションを開発してみたい!という方は是非。

 

脳科学でマーケティングが変わる時代

世界の大国が応用脳科学の分野に莫大な投資を行っています。なぜなら人間の脳を理解することで、様々な分野に活用することができるからです。その一方、プライバシーの観点やデータの使い方に対して批判的な意見もあります。

脳科学とマーケティングが融合し、より信頼性の高いデータを脳から直接得ることが可能になる時代。ニューロマーケティングは今後のマーケティング業界を新しいフェーズに進化させることは間違いないでしょう。

そして未来では、コンシューマー向けのマーケティングだけではなく、社会をよりよくする為のニューロマーケティングとしても活用されていくことを筆者は願っています。

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