1800年代初頭、水力や蒸気といったエネルギーの動力化に成功した人類は、産業革命という進化の第一歩を踏み出しました。それから200年が経った今、人類は高度なテクノロジーを手に入れ、第4次産業革命という更なる進化を遂げようとしています。
私たちの生活を大きく変える可能性のある第4次産業革命とは一体何なのか、そして古い概念の破壊と新しい概念の創造はどのように進んでいるのかを一緒に見ていきましょう。
産業革命の歴史
第4次産業革命について具体的に話していく前に、これまでに起きた産業革命の歴史を知る必要があります。
第1次産業革命
18世紀初頭、イギリスのエンジニアであったジェームズ・ワットにより、蒸気機関の技術が飛躍的に向上しました。
産業界の新たな動力源として蒸気機関や水力を活用するようになり、工場の機械化促進や蒸気船・鉄道などが発展していきました。この産業の革命によって経済が大きく成長し、社会変化が起きたことを第一次産業革命と呼ばれています。
第2次産業革命
18世紀中盤から19世紀初頭にかけて、これまで蒸気や水力が中心だった産業界に「電力」という新しい動力源が活用されるようになりました。
電力という新しい動力源が加わったことで、これまでの産業に加えて石油や鉄鋼などを活用した新たな産業も生まれ、大量生産の時代へと進んでいきます。これを総称して第2次産業革命と呼ばれています。
第3次産業革命
20世紀初頭になると、これまでのようなエネルギーによる変革の時代から、情報技術による変革の時代へとシフトしていきます。いわゆるアナログからデジタルへの変革です。
この時代はパソコンやインターネット、情報通信技術(ICT)といったコンピュータリゼイションなどの技術革新が次々に起こり、これまでの産業革命とは比較できないほどのスピードで進化を遂げ、それと同時にオートメーション化(自動化)も促進されました。
このことを第三次産業革命、またはデジタル革命と呼んでいます。
そして第4次産業革命へ
第3次産業革命の時期に培われたデジタル技術の活用、インターネットやデバイスの普及、そして人工知能分野でブレークスルーが起きたことで、世界中のヒトやモノが繋がり始めます。
その結果、人々の情報がビッグデータとして蓄積され、その情報を人工知能などで分析できるようになり、新しいサービスの創造や課題の解決ができるようになりました。
WEF(世界経済フォーラム:通称ダボス会議)の創始者クラウス・シュワブは第 4 次産業革命のことを”デジタルな世界と物理的な世界と人間が融合する環境”と提唱しており、これまでの生活を根底から変える可能性のある時代と言えるでしょう。
鍵となる4つのキーワード
第 4 次産業革命では「すべてのものがインターネットで繋がる世界」へと進んでいきます。そしてその世界を実現するための「鍵」となる分野がIoT・ビッグデータ・人工知能(AI)・ロボットです。
1. IoT
インターネットの普及と技術革新によって、IoT(Internet of Things)モノのインターネットが進み、生活家電やウェアラブル端末、車などが繋がり始めています。IoTが普及することで人々の生活がより便利になり、製造業といった工場機械を扱う場所でもスマート工場へ向けた取り組みが進められています。
2. ビッグデータ
IoTや医療・金融分野などで蓄積されたビッグデータを人工知能(AI)が分析することで、現状の課題や将来予測、そして新しいビジネスモデルの創出などが行われています。またAIが学習し進化するために必要なデータとしての活用も進んでいます。
3. 人工知能(AI)
ディープラーニングによるブレイクスルーによって、人工知能(AI)は飛躍的な進化をとげ、これまで機械的に学習する必要があったものから、自律的に考えられる人工知能になりつつあります。
第4次産業革命そしてIoTやビッグデータ、ロボットなどと融合することで、新しい価値を創造し、圧倒的なスピードで世界を変化させています。


4. ロボット
少子高齢化による人手不足の補填や工場のスマート化を進める上で、今後ロボットは重要な役割を担っていきます。そして2015年に政府が掲げた「ロボット新戦略」により大企業や中小企業が続々と参入したことで、AI・人工知能が搭載されたロボットの開発が急成長を遂げています。
第4次産業革命にかかせない「5G」
テクノロジーが進化するにつれ、取り扱うデータ量が年々増え続けています。そしてIoTといったモノのインターネットを行う上で、通信速度や通信容量が課題になっていました。
そこで、その課題を補うべく登場した通信規格が5Gです。5Gは4Gの通信速度の20倍、同時接続10倍、遅延速度1/10という次世代の移動通信システムで第4次産業革命の基盤となるとても重要な仕組みと言えます。
日本が進めるSociety5.0
2016年に閣議決定された「日本再興戦略2016」の中で、第4次産業革命が成長戦略の中核に位置づけられました。そして情報社会に続く、超スマート社会を目指し「Society 5.0」を提唱しました。
内閣府は以下のような定義を提唱しています。
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)
Society 5.0 – 科学技術政策 – 内閣府WEBサイトより
Society 5.0は人類史上5番目の社会と定義され、流通・交通・医療・金融といったあらゆる分野が繋がり、そしてIoT・ビッグデータ・AIといった革新的な技術を用いて、多様なニーズに答えられる社会を目指していく取り組みです。
第4次産業革命による各分野の進化
第 4 次産業革命は様々な分野に影響を与えています。そしてこれまで常識とされてきた方法や考え方が変化し、かつてないほどのイノベーションが起きています。
農業分野
農業分野は深刻な人手不足、経験や技術共有の難しさ、気候変動による不安定な生産性など数多くの問題を抱えています。
その課題を解決するべく、ロボットによる作業の自動化、ドローンによる農地の管理や農薬散布、ビッグデータを活用した流通や経営の効率化といった「スマート農業」へ向けた取り組みが進んでいます。AIやIoTを活用することで少人数・短時間・高品質・大量生産が可能になりつつあります。
金融分野
金融業界は最新テクノロジーをいち早く取り入れている分野で、FinTechとよばれる金融サービスと情報技術を組み合わせたサービスへの取り組みが盛んに行われています。身近な所だとスマートフォンでの送金などもFinTechに含まれます。また今後はブロックチェーン技術を活用した取り組みも進んでいます。
医療・ヘルスケア分野
医療・ヘルスケア分野は最新テクノロジーの活用が盛んな分野です。
既に医療診断データや臨床データなどのビッグデータとAI・ロボットを活用した新技術の開発が行われています。そして分析技術の進歩によって遺伝子治療の研究が進み、これまでのような集合的な情報をもとにした治療から、各個人の情報をもとにした治療へのパラダイムシフトが起こっています。
ヘルスケア分野においては、Google・AppleなどのICT企業やベンチャー企業といった医療業界以外からの参入が増えたことで、開発スピードが加速しています。
つながる世界・つながる未来へ
私たちの生きている時代は、かつてないほどのスピードで進化を遂げています。そしてこれまで常識とされてきた概念が次々と破壊され、新しい概念の創造がいたるところで起きています。
物理空間とデジタル空間、そして生物と機械が融合する時代に、私たちは新しい価値を受け入れる準備をしておく必要があるでしょう。