サステナビリティ

なぜ、スマート農業が「国家戦略としての農業改革と言われるのか」その理由

スマート農業サステナビリティ

私たち人間が生存していくために食糧の安定供給は不可欠です。いま国家戦略として新しい農業の取り組みが全国で行われ農業を大きく変えようとしています。

AIやICT等の先端技術によって超省力化と高品質生産の実現に向けて期待が高まっているスマート農業はご存じでしょうか。その特徴と日本の農業にはどの様な課題があり、どうやって社会の課題を解決していくのか、分かりやすくまとめて紹介します。

私たちと農業の関係

現代社会の食糧を支える農業の起源は1.2万年前と言われています。それまでの人類は狩猟や採取で暮らしておりましたが、氷河期が終わり次第に地球が温暖となったことで寒冷地を好む大型哺乳類は北上し、人類が住んでいるところから遠ざかりました。狩猟採取の生活に限界が訪れたころ、人類は農耕を開始しました。そして人口は増加し移動生活から集団での定住生活を選んだことで、狩猟採取社会から農耕社会へと移ったのです。

現人類であるホモ・サピエンスが誕生したとされる10~20万年の歴史から考えると、農耕はまだ新しい文化かもしれません。しかし農耕文化は、麦をはじめとする穀物栽培や果物、野菜なども育て、牧畜によって食肉から酪農など人類の生存に不可欠な食糧の安定供給を担ってきたばかりでなく、作物化と牧畜化の9割以上が現代にも引き継がれ私たちの食生活に無くてはならないものとなっています。

農業は時代と共に「くわ」や「耕運機」など新しい技術によって進化し、安定供給の確保と発展をしてきましたが、20世紀後半、日本にとって農業の状況が大きく変化していきます。

農業分野における課題

日本経済は1980年代に本格的な高度経済成長を達成し経済大国となりましたが、経済の発展が農業に与える影響は大きく、農村から人口と労働力が流出し市街地の拡大と急速な農業と農村の荒廃が進みます。

都市農業においては、住宅地域に隣接する地域での農薬散布問題や都市化・工業化が進展したことで農業用水や土壌の汚染などの環境が問題が起こる一方、地価の高騰の影響を受け農地は市街地の拡大へと進んでいきます。また経済の豊かさは国民の食生活に大きな変化を与え、貿易自由化による農産物の輸入との農産物需給の均衡が崩れたことなどから、時代とともに農業の縮小化へと向かったのです。

農業の縮小化(統計資料)

出典:儲かる農業2019(週間ダイヤモンド)

農業の縮小化となった影響は現在も続いており、農業従事者の高齢化は進行するなかで担い手の減少による労働者不足や耕作放棄地の増加食料自給率の著しい低下など深刻な問題となっています。その一方で安全で良質な食料の安定供給、環境保全や文化の伝承など農業に対する国民の期待が高まってきています。

このような背景をもとに、女性や高齢者等でも農作業ができる超省力化・農作業の軽労化を進めるともに、日本の農業は経験や技術と知識が必要なことから、これから農業を始める人でも経験や技術を問わず活躍できる新しい農業のカタチ「スマート農業」への期待が高まっております。

ではスマート農業がもたらす新たな日本の農業とは一体どのようなものでしょうか。

見ていきたいと思います。

これまでの農業を大きく変えるスマート農業とは

スマート農業とは、ロボット技術やICT、AIやIoT等の先端技術を活用し、超省力・高品質生産を実現を可能にする新しい農業のことを言います。

日本の農業が抱える課題を解決し、世界をリードする成長産業へと導く試みです。2013年、農林水産省がスマート農業を実現に向けてロボット技術利用で先行する企業やIT企業等の協力のもと「スマート農業の実現に向けた研究会」を立ち上げ、スマート農業の将来像と実現に向けたロードマップを公表しております。既にスマート農業の研究開発や現場での実証に向けた取り組みが進められており、先端技術の農業利用に向けた可能性が拡大しています。

 

農業におけるICTの活用

スマート農業

出典:総務省

スマート農業は、農業の生産現場において担い手不足高齢化が深刻な問題となるなか、人工知能やビッグデータ、ロボット技術等の先端技術やICT導入によって農業が直面する課題を解決し、超省力生産・高品質生産が可能とする新たな農業の実現を目指しています。

超省力化や高品質生産を可能とするための研究開発や現場での実証に向けた取り組みが進められており、スマート農業への期待は高まっています。スマート農業の5つのポイントは下記の通りです。

【その1】農業の改革を技術でサポート

農業の改革を技術でサポート

農業機械(トラクター)に高精度GPSによる自動走行システム等ロボット技術の先端技術を活用し、農業機械の夜間走行や複数走行、自動走行が可能となり超省力大規模生産を実現します。また重労働をアシストツールで軽労化するほか、防草・水管理などの負担の大きな作業を自動化し労働従事者の「きつい作業」や「危険な作業」から解放し、負担を軽減します。

【その2】やる気のある若者、女性などが農業に続々とチャレンジ

若者・女性の農業チャレンジ

日本の農業は知識と経験が必要とされることから、プロ農家の経験や勘をデータ化し、農業機械のアシスト装置を導入することで農作業の技術習得を容易にします。経験が浅くてもやる気のある若者、女性などでも高度な技術の利用が可能となり、農業の新たな担い手・労働力確保が可能となります。

【その3】担い手のビジネスチャンスを拡大

スマート農業:担い手のビジネスチャンスを拡大

食品情報のクラウドシステム等を導入することで、販売状況を確認し需要動向に基づく生産・出荷を実現するとともに、生産者発で有益な情報を発信することが可能となります。消費者・実需者の安心と信頼が得られ、販路拡大や商品開発に取り組める環境の構築が可能となります。

【その4】品質と信頼で世界と勝負する農産物を生産

スマート農業:品質と信頼で世界と勝負する農産物を生産

リアルタイムに温度・湿度・照度を数値化するセンシング技術の利用と、栽培履歴や作物の生育状況などの過去の蓄積データを分析することで、その時にあった適切な対応を最適化が可能となります。従来の水準を超えた多収穫、高品質、効率生産を実現し農業のノウハウの輸出も可能とします。

【その5】新たなビジネスの創出・展開

スマート農業:作物データや土壌分析データなど栽培の最適化

作物データや土壌分析データなど栽培の最適化に関するノウハウのデータ化により農業を知的財産化させ、我が国農業のノウハウの輸出のほか、農機・資材等の農業周辺産業をソリューションビジネス化が可能となります。

全国でスマート農業実証プロジェクトを開始

全国で始まるスマート農業実証プロジェクト

スマート農業の社会実現を実証するためのプロジェクトが全国規模で実証実験が進んでいることはご存じでしょうか。

日本再興戦略2016において、人工知能やIoT、ビッグデータ、ロボット、5G等を活用し第4次産業革命を推進することを目的とした、「スマート農業実証プロジェクト」や「人工知能未来農業創造プロジェクト」がスタートしています。労働力不足の解消に向け、農作業における超省力・軽労化・精密化や高品質生産の実現をしようとしているのです。

では高度な最新技術を農業分野に導入し、生産性の飛躍的な向上を目指したプロジェクトとはどの様なものでしょうか。

スマート農業実証プロジェクト

2019年から始まったこのプロジェクトは、農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践することを目標としており、全国69地区で展開しています。また、ローカル5G通信基盤を活用した高度なスマート農業技術について、シェアリング 等の手法も活用しながら地域での実証を推進し、スマート農業の社会実装の加速化を狙っています。

参考:労働力不足の解消に向けたスマート農業実証公募説明

人工知能未来農業創造プロジェクト

2017年から始まったこのプロジェクトは、革新的技術開発・緊急展開事業の一環として「畜産・酪農」と「園芸」の2つの研究分野でAIやIoT等の活用し、新たな生産性革命を実現することを目標としており、民間の斬新なアイディアを活用しつつ、AIを活用した害虫早期診断技術の開発等や収穫ロボットの高度化など、全く新しい技術体系を創造するための研究開発を行っています。

参考:「革新的技術開発・緊急展開事業」 (うち人工知能未来農業創造 プロジェクト) 実施要領

 

スマート農業普及への課題

スマート農業普及への課題

スマート農業によって労働力不足を解消し、熟練者の技術を若手農家に継承でき、規模拡大や高度な農業経営が可能となる一方、先端技術の普及には農地の大区画化や排水対策等の基盤の整備を進めるほかに、新たな技術を使いこなせる農家の育成や初期投資やランニングコストの課題についても解消が必要です。

また中山間地域などの条件不利地がスマートの業から取り残されないことも大切となってくるため、スマート農業を普及させるにはまだまだ課題は残されていますが、スマート農業への取り組みによって農業の課題を解決し農業の生産性を飛躍的に高めることが可能となるメリットの方が今後も増えていくことでしょう。

まとめ:スマート農業

スマート農業は如何だったでしょうか。既存の団体や企業だけでは新たなイノベーションは生まれません。他分野の参入を進め、これまでにない先端技術やノウハウを活かしてイノベーションを生み出すことが大事です。

ロボット技術やICTを活用したスマート農業を実現するため、今後も先端技術の実証プロジェクトや地域での戦略作り等、環境整備等の取り組みを官民協働で推進しスマート農業技術をより安価に提供する新サービスの創出に期待が高まります。

スマート農業は労働力不足や重労働の解消だけでなく、誰が今後の農業を担っていくかという本質的な課題の解消の糸口になるかもしれません。

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