新しい通信技術である5Gの登場により、「モノ」と「サービス」と「人」、そして多様なビジネス同士をつなぐことができるようになり、これまでになかった新たな価値の創造と社会全体を繋げるスマート社会の実現が可能になります。
人類社会は、これまで「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」と発展してきました。
いま、デジタル革新をきっかけにして、第5段階の新たな社会「Society5.0」への変革のときを迎えており、5Gを活用した取り組みが進んでいます。
この記事では、新たな社会で5Gが活用される理由とその未来について8つの業界や分野「救急医療、農業、自動車、建設、防災・減災、自治体、教育」について徹底解説しています。
5Gの通信技術の特徴についてはこちらもあわせてお読みください。
超スマート社会=Society5.0への幕開け
スマートフォンがまだ普及していなかった10年前には、ビッグデータもAIも社会的に充分な認知がされていませんでした。その後、高速化された4Gの通信技術によってスマートフォンが普及したことにより世界は情報社会(Society4.0)へと歩みを進めていきます。
そして多種多様かつ大容量のデータが生まれるなか、AIがディープラーニングによりブレイクスルーしたことで、ビッグテック企業と言われるGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)は大きく伸長し、巨大IT企業へと変貌を遂げていきました。
こうして世界のバリューチェーンを占めていたGAFAMですが、いまでは中国のBATH(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawei)が今やその一角を切り崩しつつあります。
現代の急速な技術革新は、とても速い速度で市場を変化させ、次世代産業を巡り国家間の競争にまで発展しているのです。
しかしながら、世界がこの10年で大きくデジタル技術の進歩とともに経済発展していくなか、我が国日本は1993年のバブル経済崩壊から未だ日本経済は低成長を続けており、失われた30年とも言われております。
これは日本の強みであった研究力が低下した上に、少子化、高齢化など山積する課題に対し解決できないまま財政悪化が生じ、日本経済を低迷させているからです。
これからの10年で人類社会は新たな段階へと突入します。日本はこれからの10年で未来をどう切り開くかが重要です。
そこで日本は世界に先駆け、新たな社会のコンセプト「次世代のスマートシティ」を世界に提示しました。このコンセプト実現によって、日本経済発展と日本社会が抱える課題の両方を解決しようとしています。
つまり、Society5.0とは社会の変革への方向性を示し、経済界の考えをまとめた、日本の「志し」に対する「ビジョン」を示した「挑戦状」と言えます。
5GがSociety5.0を支え、超スマート社会を実現する理由
5GがSociety5.0を支え、超スマート社会実現する理由とは一体どういうことでしょうか。超スマート社会は次の様に定義されています。
必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な制約を乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会
引用:総務省
超スマート社会とは第4次産業革命(IoT、AI、ビッグデータ、ロボット、シェアリングエコノミーなど)のイノベーションをあらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、超少子高齢化による縮小社会など様々な課題を解決する「Society5.0」を実現することにあります。
つまり、これまでの電力や交通などのインフラだけでなく、IoTによって全ての「モノ」や「人の行動」も含めた社会システム全体を繋ぎ、そこにビッグデータとAIを用いることにより、リアルタイムの予測やシュミレーションを行うことができるようになります。
この新たな付加価値により、人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができる「人間中心に最適化されたサステナブルな社会」(※1)を実現しようと考えいてます。
※1サステナブルとは、人間社会・地球環境の持続可能な発展の意。
5GがSociety5.0を支え、超スマート社会を実現する理由は、社会のシステム全体を第4次産業革命に繋げるために必要不可欠な超高速、超低遅延、多数同時接続可能な通信技術だからです。
では、超スマート社会はどんな世界になるのでしょうか。
私たちの暮らしがどの様な変化が起こるのか見ていきましょう。
5G×IoTで進化する業界や分野の未来
・IoTスーパーマーケット「買い物が変わる」
出典:総務省
日本では少子高齢化や人口減少により働き手不足と労務コストの上昇が顕在化しております。また年間643万トンの食品ロスや返品などによる無駄も社会問題となっています。
一方で消費者意識は多様化しており、消費者の変化するニーズを正確かつスピーディーに把握することは重要な課題となっています。5Gは、流通業においてIoTを活用した店舗のスマート化を可能とすることで、様々な社会問題を解決すると同時に、最適な流通を実現を可能としています。
たとえば、5Gの多数同時接続の特性を生かすと、電子タグ(電波を利用し非接触で商品を識別する)を全ての商品へ貼り付けを行うことで、電子タグの情報から、いつ、どの地域で、どの店舗で、どの商品がどの程度消費者へ流通したかといった商品の流通状況をリアルタイムに把握することが出来ます。
電子タグの情報により、レジや在庫管理の高速化や万引き防止、消費期限の管理ができるなどメリットが多く存在します。また、食品ロスの削減など店舗の課題を解決することも可能です。
さらに電子タグとカメラを連携させると、店舗の商品がリアルタイムに把握できるので欠品管理やレジでの会計も無人レジでキャッシュレス決済が行えるようになります。
その他にも紙のレシートをスマートフォンアプリで電子レシート化することで環境にも優しく、また購買情報を消費者個人はいつでもスマートフォンを使って閲覧や管理できますので家計の管理にも簡単になります。
また自宅のIoT化が進むことでスマートフォンを通じて冷蔵庫の在庫を見ながらお買い物も可能となり、食品ロスの削減が可能となるなど、IoTは5Gを活用することで大きなメリットを得ることができるのです。
・自動運転タクシー「地方での暮らしが変わる」
出典:総務省
現在日本は少子高齢化や人口減少という大きな課題に直面しており、特に地方都市では公共交通などにも深刻な問題が起きています。そのひとつが「路線バスの廃止」です。
2006年から2011年の6年の間に地域住民の生活の足となる路線バスは、人口減少の煽りを受け、走行距離にして11,160kmもの路線バスが全国で廃止されました。
この影響により路線バスを利用していた高齢者の移動手段がなくなったり、運転免許証を返還したくても移動手段がないので出来ないといったことも社会問題となっています。
地方都市では、今後も人口流出による人口減少や高齢化がさらに進むことが予想されており、それに伴って路線バスなどの公共交通機関の減少が進むことは間違いありません。
そこで注目を浴びているのが自動運転による「自動タクシー」です。
自動運転タクシーは、目的地までドアtoドアで利用することが可能で、タクシーの便利さとバス料金並みの料金で利用できるような仕組みを目指しています。
5Gの超低遅延通信の特性を生かすことでデマンド交通(各利用者の希望時間や乗降場所などの要望=デマンドに応えてくれる)として新たな交通システムの実現が可能となるのです。
自動運転自動車の普及が進む未来には、シェアリングエコノミーと連携することが考えられますので、自動車を所有するという概念も変える交通システムになると言えるでしょう。
・スマート建設 「仕事のやり方が変わる」
出典:総務省
建設現場も人手不足で悩む業界です。就業者の内訳を見ますと、55歳以上が約34%に達しているのに対し、若年層である29歳以下はわずか約10%にとどまっております。就業者の高齢化が進み深刻化しています。
これまでにも建設機械の遠隔自動操縦は一部の建設現場で実用化されているものもありますが、4Gの環境下では遅延なく操作することに限界がありました。微妙な操作をするにあたって、4Gの環境では現場の映像と機械の操作のタイムラグが生じるという問題があったからです。
そこで注目されたのが5Gの「超遅延」という特徴です
5Gの大容量かつ超低遅延通信によって、遅延なく双方向通信が出来ることができるようになり、建設機械の遠隔操作、自動操作も可能となりました。また、これまでドローンを活用した測量はデータを取り出して解析する必要がありましたが、今後は5Gの超高速大容量の特性によってリアルタイムにデータを通信できるので、高精度な測量解析を実現することが可能となります。
5Gは業務の効率化と人手不足を解消するだけでなく、建設現場で働く方の安全性の向上に向けて実用化されていくでしょう。
・ドクターヘリ 「救急医療が変わる」
出典:総務省
救急出動は増加の一途を辿り、2015年の救急出動件数は消防防災ヘリコプターの件数も含むと約600万件と過去最高を更新しました。出動件数の増加によって、現場到着所要時間も8.6分へと最長を更新しています。
深刻な高齢化により救急需要や病院での収容時間を増加させる一方、救急出動の担い手となる救急隊の増加にも限界があることから救急医療は安定的な救命活動の課題へ対応が必要となっています。
つまり、急激に進む高齢化によって、救急出動の需要は高まる一方、サービスを供給する救急隊の人員不足や患者を受け入れる病院が対応しきれない状態になっており、人員や施設の限界がきております。
従来のシステムでは高齢化の歯止めが効かない現実を踏まえると、対応がますます困難な状況になっていくことが予想されます。
救急医療における安定的なサービスを持続するために、政府は消防機関以外の救急救命士の活用や救急車両の適正利用の推進など救急のあり方についても議論をしていますが、それと並行し技術革命による救急医療のシステムを見直しを図ることで、抜本的解決を考えております。
その新たな救急医療において、5Gは必要不可欠な存在となります。
5Gの特性の超高速大容量でデータ伝送と超遅延通信も可能なことから、IoTを活用した各種医療機器や設備をもつ「ドクターヘリ」や救急車両の登場によって、専門的な医療機関が無いような地域や深刻な状況が遠隔地で発生しても、リアルタイムに双方向通信が可能となればその場に熟練医がいなくても遠隔で緊急手術を行うことも可能となります。
医療機関においては、超高速大容量通信、超低遅延通信の特性を生かし、医療機器を遠隔操作できるようになります。また手術データの入手やバイタルデータなどを可視化を行い、連携することで手術の精度が向上することに期待ができます。
さらに患者のマイナンバーに紐づく検査データや高精細映像の情報についても医療機関で共有が可能となりますので、地域などに関係なく誰でも精度の高い、高度な医療を受けることができることができますので、5Gは安全で安心できる最適化された医療システムに活用されていきます。
・スマート農業「仕事のやり方が変わる」
出典:総務省
農業の就業人口は、65歳以上が全体の約6割の133万人に対し、50歳未満の農業従事者は約1割となっており、労働力不足が深刻な問題となっています。
その理由のひとつとして、危険な作業やトラクター操作の様に熟練者でなければできない作業が多く、機械化が難しいと言われており、それが若年層の参入の妨げとなって慢性的な人手不足の原因となっています。さらに、担い手の減少によって1人あたりの作業面積も拡大していることもあり、農業従事者の負担は増加の一途を辿っています。
このような様々な課題を解消する取り組みとして「農業技術」×「ICTによる先端テクノロジー」によるスマート農業が注目されています。
スマート農業は、ICTやロボットなどを活用した遠隔作業、ドローンを活用した農地の管理や作業、熟練農業者の「経験」や「感」に基づく技術や判断をAIに継承させるなど、担い手不足の課題を解決することが可能になります。
またビッグデータを活用することで、作物や農地の状態が見える化され、知識や経験が少ない就農者でも適切な判断を行うことができるようになったり、AIによる新規就農者への技術継承といった取り組みも進んでいます。
5Gの特性を生かすことでロボット・AI・IoT等の先端テクノロジーを農業へ繋ぐことができます。これにより省力化や人手不足といった課題や作業負担の軽減などスマート農業実現に期待されています。
・神の目による防災「防災・減災の仕組みが変わる」
出典:総務省
地震、津波、噴火などによる自然災害が多く発生する日本では、自然災害が発生したときの被害を最小限に抑えるために、一人一人が慌てずに適切な行動が重要とされています。その為にいち早く発生場所を特定する情報収集と災害時における「初動」が重要となってきます。
5Gは防災や減災において超高速大容量や多数同時接続の特徴をいかし、町の中に多数設置された高精細な映像センサーによりデータを収集することが可能です。データを活用することで、災害情報を網羅的に把握するとともに、被災者に最適な避難経路情報を迅速に届けることができる「災害に強い社会」の実現が可能となります。
5Gを活用したカメラドローンは現代版「火の見やぐら」です。カメラドローンが検知し、スマート医療と連携することで、被害の最小限を抑えることも可能です。また、これまでの防災や減災といった情報発信は行政が担って来ましたが、高齢化や人口減少を考えると最先端テクノロジーだけでなく、私たち個人の力で共助することも重要です。
個々の力で人々を助けあう精神は、救助や避難の効率化に繋がり、人間味溢れるスマート社会への第一歩となるのではないでしょうか。
・GIGAスクール「教育が変わる」
出典:文部科学省
5Gは教育の現場も変えることになりそうです。
政府は多様な子供たちを「誰一人残すことのない、公正に個別に最適化された学び」の実現に向けて、ICTを基盤とした先端技術で教育データを活用し、次世代の学校「GIGAスクール構想」を掲げております。
GIGAスクール構想とは、義務教育課程の生徒に1人1台の端末、および高速容量の通信ネットワークを整備することで、生徒一人一人に個別最適化された学びを全国の教育現場で持続的に実現させようとする構想です。
このGIGAスクール構想は、EdTech(教育×テクノロジー)と呼ばれ、子供たちに確かな基礎学力を土台にした創造性を育むことを目的に、一人一人の理解度や特性へ個別に最適化する仕組みとして、居住地域による格差のない学びの環境を構築することを目標としています。
その実現において、超高速大容量、多数同時接続が可能な5Gは欠かせな存在であり、ビッグデータやAIを活用した教育イノベーションの普及を推進する上でも重要な技術となるのです。
現状、全国平均で生徒5.4人にPC1台がとなっていますが、都道府県の格差は1.9~7.5人と開きがあります。その格差を埋めるべく、全国の学校にインターネット環境の整備や生徒一人一人に端末の配備、さらにはセキュリティ対策などが進められ、2023年度までに生徒一人一人が端末をもち、活用できる環境を目指して急ピッチで進行しております。
GIGAスクール構想は、「IoT」×「5G」×「AI・ビッグデータ」によって教育現場における地域間格差を解消し、新時代の教育と言えるでしょう。
・スマート自治体 「自治体が変わる」
少子高齢化や人口減少により職員定数の減少が顕在化する自治体における業務効率の向上が差し迫った問題となっています。
そこで政府はスマート自治体を掲げ、行政サービスをデジタル化へと進める取り組みとして「デジタルガバメント」を推進しております。
デジタルガバメントとは行政手続きを電子申請により電子化を行い、行政における情報連携の基盤整備をオンライン化することで、これまでの「お役所手続き」の行政負担の軽減と企業や国民にとって利便性の高い行政サービスの構築を目的としています。
2019年5月に行政手続きの電子申請オンライン化に向けデジタル手続き法が成立し、行政サービスのデジタル化に向けた動きが本格化しています。
この3原則が、デジタルガバメントを推進する
1. 行政手続きをオンラインで完結する電子申請「デジタルファースト」
2. 異なる手続きも一度の入力で良くなる「ワンスオンリー」
3. 関連手続きが一括で終わる「コネクテッド・ワンストップ」
となっており、政府・地方・民間全ての手続きの電子化を実現することで、より簡単に、より早く、面倒な手続きから解放することを目指しています。
他にもスマート自治体への取り組みとして、河川等における災害監視の人員不足も挙げられ、災害時におけるリアルタイムな情報共有やAIによる河川の監視など、先端テクノロジーによる課題解決も目指しております。
ネットワークに欠かせない5Gの通信技術を活用することで、「安心して」「安価で」「多様な」AIサービスを共同利用できる環境を整備することができます。
行政サービスの仕事の仕方を抜本的な見直しと改善を繰り返しながらサービス向上を実現していくことでしょう。
まとめ:5Gがビジネスや世界をどう変えるのか
いかがだったでしょうか。5Gは「超高速大容量」「多数同時接続」「超信頼」の特性を生かすことで地域の課題とSociety5.0を支えます。
5Gはいつでもどこでも「つながる」コミュニティとサービスを生み出し、快適で便利な生活をさせるためのイノベーションによって変化し続ける産業にも対応します。誰もが豊かな人生を享受することができる共生社会の確立こそが、スマート社会の本質ではないでしょうか。