新型コロナウィルス感染症の拡大はテレワーク、通勤、会議、飲み会、健康に大きな変化を与え、私たちの生活を直撃した。
フィジカル空間で行われていた「常識」がサイバー空間へと移行したことで、人々の価値観はたった2~3か月間で大きく変わることになった。ただ、ウィルスがもたらした価値観の変化に好感を持っている人が多い。それは、今まで必然と思われていた「そういうもの」や「それが普通」などを前提とした社会常識を社会全体でリセットしたことで、自分の生活の自由度を自分たちの手で、主導権を持ちながら再設定し、自由度を増していったからだ。
生活、仕事、ライフスタイルなどの価値観にどの様な変化があったのだろうか。
新型コロナウィルスによって価値観に変化
引用:ワークポート
ワークポートの調査(2020.6月調べ)によると、「新型コロナウィルスをキッカケにした自身の価値観に変化を与えたか」という設問に対し、「75.3%もの人が変化があった」と回答している。さらに、新型コロナウィルスがもたらした「価値観の変化が自身にとってどの様なものと感じているか」という設問では「とても良いものだと感じる24.1%」、「やや良いものだと感じる51.2%」の回答を得ており、実に8割近い人々が今回の自身の価値観の変化について好感している。これからもコロナ禍で生まれた価値観や意識の変化に向き合いながら「新しい生活様式」へ移行していきそうだ。
生活の変化「新しい生活様式」への移行
生活の自由度がなかった外出自粛時においては、家族とオンラインでビデオ通話したり、休日以外でも家族と過ごす時間を大切するなど「家族志向」の要因がある。それ以外にも読書や資格の勉強、片付けや整理整頓といった家のことに目を向ける「イエナカ充実志向」の要因も多い。さらには、時間に追われる生活から離れた人や、タバコの本数を減らした人、仕事終わりの寄り道をやめるなど生活習慣の変化に影響した。
政府は5月、新型コロナウィルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、ウィズコロナを想定した「新しい生活様式」を公表した。新型コロナウィルスによる外出自粛により、「買い物」、「移動」、「娯楽」、「食事」、「イベント」などの日常生活の生活様式はもとより、新しい働き方のスタイルとして「テレワーク」、「オンライン会議」などを示した。これらは新型コロナウィルスが流行する前の「常識」や「普通」の価値観を変え、アフターコロナに向けての移行を後押しする形となるだろう。
免疫力を高めようとする健康意識の変化
ソフトブレーン・インフィールドの調査(2020年4月調べ)によると20~60代の主婦を対象にした「新型コロナウィルス感染症対策に関するアンケート」で、感染症対策として健康への意識が高まり、「生活習慣を見直した」が61.9%となっている。
「バランスの取れた食事、入浴で身体を温め、十分な睡眠」で規則正しい生活に心掛けた生活習慣の見直しをした人が半数近くおり、ウィルスに負けない身体づくりを心掛けようとする「安全・安定志向」傾向が強い。一方で外出自粛の影響により、「適度な運動」や「ストレスを貯めないこと」については「心掛けているが出来ていないと感じている」が4割近くを占めた。
急な生活の変化の中で、「不安を解消するために行っているものがある」が31.6%となっている。回答を見ると、身近な人と関わって不安の解消を行う人もいれば、オンライン英会話などでスキルアップする人もいるなど、ピンチの捉え方が自由度の高い時間の有効活用に影響を与えたようだ。
ライフスタイルに関する価値観の変化
引用:C CHANNEL
C CHANNELの「新型コロナウイルスの感染リスクが少なくなり外出が自由になったら、行いたいこと」の調査(2020年5月調べ)によると、ステイホーム時に娯楽費や洋服代を節約していた人が多かったこともあり、外出自粛が終わって生活の自由度が得られれば、これまで我慢していた「人と接し、旅行を楽しみ、街に出かけ、店を訪れる」などのリアルの良さとリアルならではの喜びを享受しようとする傾向が多いようだ。
これらの動向は急な生活の変化で鬱憤を晴らす形となった。しかしながら、新型コロナウィルス禍の長期化や第2波の到来が見込まれる中で、価値観やライフスタイルの変化が一時的なものに留まらず、生活に定着していく可能性が高い。
それは、経済消費行動の全体的な低下を見込むなかで、消費者の価値観が生命維持のための緊急度や生活維持の観点で、不要不急度に応じた消費目的や消費対象へ質的な変化を与えるからだ。つまり一時的に娯楽費やレジャーへの支出が出ても、感染症への不安心理が働き、不要不急な支出は控え、財布の紐が固くなるだろう。
その傾向は既に出ており、読売新聞の記事(6月25日)によれば、個人が保有する国内銀行の預金残が急増していると報じている。新型コロナ支援融資や給付金などの影響があるにしても、前月から17兆円も増え、史上初めて1,000兆円を超えたのは、経済の実態と乖離する結果となっており、消費に対し慎重な構えだ。
また、自己表現の変化に気づいただろうか。Instagramを見ている人は気づいたかもしれないが、外出自粛の影響で自分の外側の客体ではなく、内側の主体を表現するものが増えている。これは自分の外側(インスタ映えするものなど)で自己表現していたものが、自分が何を考えているのか、自分がどういう事をやっていくかなどオピニオンの拡散がされるようになった。
これはInstagramだけに限ったことではない。季節がくればイベントが強制発生していた花見や入学式、さらには結婚式などの人生のイベントさえも中止となったことで、自分から能動的にイベントを起こしていかないと、何も起こらないと感じるようになった。それが、やがて、自分からイベントを起こすキッカケとなり、(無観客)動画配信などを利用して、自分の考えや自分の存在意義を示すために発信する人が増える結果となっている。
こうした自己表現の変化は、政治やニュースへ関心が強まった芸能人が社会貢献意識のある発信の引き金となったのではないだろうか。
交際意欲は高まる一方、相手選びの基準が変わる
引用:Pairs
「Pairs」を運営するエウレカの調査(2020年5月調べ)によれば、僅か2~3か月の未曽有の事態で約2割の恋愛観に変化をもたらしたと報告している。しかし、20~39歳の3割が交際意欲が以前より増しているものの、時期的・経済的に結婚に踏み出しにくいと感じている人が半数を占めており、さらにはコロナ離婚への不安も感じている。
感染症が広まると、収入減少に伴うリスクを考え賃貸及び住宅ローン見直しが現実的な問題となるだろう。しかもテレワークの定着が進めば、首都圏から地方への引越しを考える人が増えることも考えられる。これまで通勤という壁に阻まれていた地方移住が価値観の変化とテレワークの普及が重なることで、住まい選びの幅が広がるのではないか。ただ、結婚を意識している人からすれば、交際意欲が高まる一方で、住まい選びはパートナーとの合意が必要であり、意見があわなければ離婚の火種にもなりそうだ。コロナ離婚を避けるためにも、お互いの価値観や性格の一致が重要となってくるだろう。
また、相手選びの基準に「価値観」を重視する傾向は、給料の高さや外見よりも、共働きを前提としたリスク分散の考えが強くなるのではないか。これまでの意識や価値観を変えざるを得ない状況が出てくることからも、本当に困ったときに支えあえる関係を重視する傾向は強くなりそうだ。
仕事探しは勤務地の重視、ご近所を探す傾向
引用:しゅふJOB
しゅふJOBが緊急事態宣言中に主婦1000人に行った調査(2020年5月調べ)で「休業や休校、外出自粛時の仕事探しをする意欲」についてアンケートをとったところ、「仕事探しをする意識が下がった」が38.6%という結果となった。これは、面接が設定されない、連絡しても回答がないなど会社の都合で面接まで進めない状況が続いたからだという。
仕事探しを続けた主婦の回答を見ると、将来の経済面を真剣に考える主婦や、休業補償などを考え、正規雇用を求める傾向があった。また、子供の休校・休園の事情でシフトに自由度のある仕事を探すなど、家庭環境などによって、差があるものの仕事探しに変化が出ている。
さらに、緊急事態宣言が解除後の調査(2020年6月調べ)で、「緊急事態宣言の解除前後で仕事探しをする意欲」についてアンケートをとったところ、「仕事探しをする意欲が高まった」が40.2%となっており、前回の意識が下がったと逆転する結果となった。
ただ、仕事探しの意識に変化があり、「公共交通機関での通勤を避ける」が39%となった。感染リスクを下げる傾向が強く、徒歩や自転車で通勤できる仕事探しへと意識が変わっている。
引用:時事ドットコム
この通勤に関する意識の変化は、「Re就活」を運営する学情の調査(2020年)でも明らかだ。仕事探しで妥協できない条件の1位は「勤務地」で62.2%となっている。通勤時間を短くしたい傾向もあり、希望の通期時間の平均は30.7分だという。これは新型コロナウィルスの感染拡大による感染リスクを下げる意識の他にも全国でテレワークが実施されたことにより、通勤時間の希望に変化が出た結果だ。通勤時間が30分程度となったことで選択する希望勤務地のエリアが絞られる形となった。
働き方のこだわりが変わり、副業への関心が強まる
引用:アントレ
アントレの調査(2020年5月調べ)によれば、「コロナの影響下における、働き方の意識の変化」は「価値観が変わった」と62%が感じている。特に20~29歳で75%と若い世代での価値観の変化が強いようだ。また、コロナの影響で休業などを理由に収入減となったことで、東京都の20代女性の約9割が「副業」、「複業」、「独立」に関心を高めており、収入補填やリスク分散を考え、複数の収入源を確保する動きが見られる結果となった。
生活の自由度とワークライフバランスを重視する傾向が強まりは、独立の検討を増加させる結果ともなった。「副業」、「複業」、「独立」に関心を持つ約4割が、年内に行動することを検討しており、柔軟なキャリア形成に意欲的な傾向が続きそうだ。
まとめ
外出自粛前後の2~3か月の短期間で、これまでの常識を社会全体でリセットされた。恐怖や不安の中で、人々の意識が変化し、価値観の揺らぎが起こったことで、外出自粛前のそれまでとは、生活習慣から結婚観、働き方の価値観さえも大きく変える結果となった。
コロナ終息後もこの新たな価値観は普遍的なものになるのではないか。それは、自分たちの手で再設定した価値観で変化させた新たなライフスタイルに好感を抱いているからに他ならない。
(参考文献)
- 働くみんなのホンネ調査「新型コロナウイルスがもたらした価値観の変化」約80%が「変化あり」
- 新型コロナ、約7割の人が「価値観が変化した」「外出に抵抗がある」【ビッグローブ調べ】
- 新型コロナウイルスに関するアンケートを実施〜F1層の緊急事態宣言解除後の動向は?〜
- ー食生活・運動・挑戦・心の繋がりー働く女性のコロナ禍を乗り切る工夫
- 【20代転職意識調査】入社先を決める際に最も重視するのは「勤務地」。希望の通勤時間は「平均30.7分」という結果に。
- 「アルバイト」に関する調査データ一覧 | 調査のチカラ
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